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パトリック・チャン スケカナ2015男子フリー後プレカンコメント
スケカナ男子、すごい戦いでしたね!
私的にはパトリック、羽生くん、ダイスくん、それぞれのすごさを見せてもらった大会でしたが、特にパトリックのフリー。
結果的にクワドと3Aが1本ずつという、最近の男子トップとしてはジャンプの難度が高いとは言えない構成でしたが、パトリックが余裕を持って滑るときの、あの圧倒的なダイナミックさを久々に見せつけてもらった演技でした。

そのパトリックのフリー演技後のプレカン動画が、スケートカナダ公式チャンネルにアップされました。
会見の一部を抜粋・編集したものだと思いますが、いろんなことを率直に語ってくれています。羽生くんとの対戦についても、さりげないけれど、ちょっとじわっとくるコメントを……

 

パトリック・チャン スケカナ2015 フリー後プレカン

「僕にとってはかなりストレスのかかる、ハードな試合だったよ。(フリーの)6分間練習ではいい感覚ではなかったんだ。かなり不安な気持ちだったし、集中できていなかった…身体的にというより精神的にね。

だから、自分の滑走順が来るのを待っている間、キャシー(コーチ)がいてくれてよかった。こういう時って、コーチとスケーターの関係が大きな役割を果たすんだ。僕の心によぎったことを話し合ったり…どうやって前を向けばいいのか、とかね。なぜなら僕はそのとき、すっかり途方にくれていて、どう対処していいのかわからなかったから。自分の順番が来るのが怖かったんだ。

そんなことをじっくり話し合ってから、リンクに足を踏み出したら、無心で滑れたんだ。自分のまわりに誰がいるとか、誰が見てるとか、そんなことは全然意識せずに、ただ滑った。自分のために滑るのがとてもいい気分だった。毎日練習してきたことを氷上で実行できるのは、身体的にすばらしい感覚だったよ。

そう、今日はとてもうまくいったんだと思う。スケーターにとってミスは常にあるものだ。いい日もあれば悪い日もある。今日はたまたまいい日だった。もっと安定して、こんな日がもっとあるといいな。

今日の自分の演技をふりかえってみると…違いはメンタルかな。試合で一番ものを言うのは、身体的な部分よりメンタルな部分だと僕は思っている。身体的なことについては、ここにいる3人全員、よく鍛錬しているのは確かだ。このレベルでは、鍛錬していないとここには来れないからね。

SPではちょっと考えすぎたかもしれないな。僕は戻ってきたよ!とてもワクワクしてる!ジャンプも完全に取り戻した!僕はここにいるよ!ってことを、みんなに見てもらいたいとすごく考えていたんだ。まるで友達に会えた子犬みたいに、とても興奮しちゃってた(笑)。そんな状態だったから、ちょっとコントロールしきれなかったんだと思う。それに、SPは新しいプログラムだから取り組むべき課題が多いし。

その点フリーは、僕にとっては、はるかに心を落ち着かせてくれるプログラムなんだ。(フリープログラムには)自分を立て直すことができる箇所がいくつもある。もしパニックになっていたら、そこで自分を立て直して、リセットできるような箇所がね。それが(SPとフリーの)差だったかな。それともちろん、冷静な気持ちで、さっきも言ったように自分に対していい気持ちを抱きながら、滑ることができた。お客さんも、僕がどんな動きをしても全部楽しんでくれたみたいだしね。

復帰するかどうか決心するのは大変だったよ。自分は本当に復帰を望んでいるのか?ってね。じつは、僕が復帰を決めた大きな理由のひとつは、厳格な練習の日々に戻りたい、ということだったんだ。来る日も来る日もある目的に向かって、毎日課題に取り組む、そんな生活にね。ショーやその他の活動をしているときはいいんだけど、何もない日はとても退屈していたんだ。友達はみんなリンクで練習してるのに、自分は家にいてただ座ってるなんて、何をやってるんだろう、と。

だから、雰囲気が恋しかったのかな。トレーニングセンターの雰囲気とか、友達がみんないる試合会場の雰囲気とか。今まで過ごしてきたすばらしい時間を、あれこれ思い出してしまったんだ。

だけど、いざ試合となって、本気でかからないといけなくなると、「オーマイゴッド、自分は何をやってるんだ?」ってなったよ。プレッシャーがすごいし、居心地も悪いし。でも、僕は今、それを学んでいるんだ。今もそうだよ、居心地の悪さはすごくある。でも、これは1年の休養明けの久しぶりの試合だからね。これから前に進んでいけば居心地の悪さもなくなってくるだろうし、いろいろ学んでいけるだろう。今日だってフリーの演技中や演技前後の経験から、ものすごくたくさんのことを学んだよ。

それに、ユヅと一緒にここにいること……エキサイティングだったよ。オリンピック以来初めての対戦だったからね。あれ以降、彼にはいろんなことがあったし、僕もたくさんのことを経験した。僕ら2人とも、いろんな変化を味わった。また対戦できるのはうれしいよ。

でも、結局はフィギュアスケートというのはボクシングの試合ではないからね。氷上では自分ひとりで滑らなくちゃならない。自分にできるベストなものを氷上で提示して、その結果を待つ――そういうものなんだ。



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羽生くんとはさまざまなメディアで「ソチ以来の対決」と煽られて、そんな報道にパトリックもプレッシャーを感じないわけがなかったと思うんですが、「ユヅ」と今一緒にここにいることを「エキサイティング」と笑う笑顔がすてきです。彼にも僕にもいろいろあった、という言葉に、”戦友”へのさりげない気遣いと仲間意識が見えるような気がします。
最後の「結局はフィギュアスケートというのはボクシングの試合ではないからね。氷上では自分ひとりで滑らなくちゃならない」は、隣にいる戦友への励ましの言葉でもあるのかな。

復帰を決めてからいろいろなインタビューで強気な言葉を口にしていたパトリックですが、復帰にあたってのプレッシャーは大変なものだったんでしょうね。そして、フリーの直前に押し寄せてきたものすごい不安感。
そのあたりのことがこちらの記事に書かれていましたので、少し抜粋してみます。

不安感は夏の間からずっと、このスケートカナダのリンクに上がる直前まで彼を悩ませていた。
「不安な気持ちは何日も、何週間もあったよ」とチャンは話す。「キャシー(コーチ)にこう言ったことが何度もあった。”もうリンクを降りる”、”こんなことはやりたくない。もうだめだ。こんなことやりたくない”とね」
そして、フリーの6分間練習が終わって滑走順を待つ間、チャンが感情的にメルトダウンしてしまい、涙を浮かべる瞬間があった。チャンによると、その時間の重さに耐えられたなかったという。
「キャシーと話し合ったんだ。僕は”なぜこんな選択をしてしまったんだ? 僕は自分になぜこんなことを無理じいしてるんだ? なぜこんなにも試合に出ることが怖いんだ? なぜ自分で自分をこんな居心地悪い状況に追いやったんだ?”そう口にしていたよ」
チャンは数分間、両脚を壁にもたせて床に横になった。そして、ジョンソンコーチから叱咤の言葉をもらった後、リンクに出ていって美しいフリープログラムを滑ったのだ。


――あの演技の直前、こんな状況だったとは。
キャシーコーチは元ダンサーでスケート経験者ではないため、ジャンプを教えられるコーチをつけたほうがいいとさんざん言われてきました。でも、パトリックにとってはきっと、そばにいなくてはならない、とても大切な存在なんでしょう。


スケートカナダ公式チャンネルにアップされた男子バックステージ動画。パトリックとキャシーコーチの姿もあります。
ふだんはなかなか目にできない場所ですが、選手とそれを支える人たちの間でさまざまなドラマがある場所なんでしょうね。



JUGEMテーマ:フィギュアスケート
カテゴリ:パトリック・チャン | 11:00 | comments(12) | trackbacks(0) | - | - |
ブライアン・オーサー インタビュー@中国メディア「爱滑冰」
ここ数年、中国版の微博(Weibo)にもフィギュア関連のアカウントがたくさんできて、中国杯や中国でのアイスショーのときにはフィギュア情報があふれるようになりました。(この点、日本の連盟はけっこう遅れてるんですよね。テレビ局やフィギュア誌のアカウントはたくさんあるけれど、スケート連盟がツイッターやFBで情報発信してくれたら、といつも思うんですが…かえって怖いかしら^^;)

そんな中に「爱滑冰」というアカウントがあります。これは、引退した中国ペアのチン・パン&ジャン・トンが立ち上げた「Beijing Iskating Concept」という会社が運営しているフィギュア専門アカウントだそう。割と新しめのアカウントですが、中国フィギュア情報だけでなく、パン・トンが出演した日本などのショー情報もアップしているようなので、Weiboのアカウント持ってる方はぜひチェックしてみてくださいませ〜。

その「爱滑冰」が、今回の2015年中国杯の期間中に、ハビエルに同行してきたオーサーコーチに独占インタビューをおこなったそうです。
    元記事はこちら→「专访"蟋蟀"教练――Brian Orser」2015-11-11 爱滑冰

インタビュアーさんによると、オーサーはとても気さくに、誠実にインタビューにこたえてくれたそう。教え子の羽生くんやハビの話になると、必ずson(息子)という言葉を口にするのが印象的だったとか。
原文は中国語と英語を併記してあり、主にこの英文の方から日本語に訳してみました。




「ブライアン・オーサー インタビュー」2015-11-11 爱滑冰

Q:こんにちは! 中国にどんな印象をお持ちですか?

オーサー:中国は大好きだよ、うん。ハビエルの世界選手権ではいい思い出がいくつもあるよ。羽生については…(笑)…残念だったけれどね。

Q:羽生選手はこの先また中国杯に戻ってくると思いますか?

オーサー:うん、おそらく。まだもう2シーズン残っているしね。彼はたぶん中国に戻ってくると思うよ。
     
Q:あなたは2022年の北京冬季五輪に、またここ中国に戻ってこられますか?

オーサー:戻ってこれたらいいね。ただし、羽生やハビエルとは一緒ではないかもしれない。今、かなりいい若い男子選手をみているんだ。韓国のチャ・ジュンファンというんだ。

Q:もし中国選手をみてほしいというオファーがあったら、教えてみたいと思われますか?

オーサー:どんな可能性だってないとは言い切れないからね。でも、今は男子選手は手いっぱいなんだ。新しい選手もひとりやってくる予定だし。
 
Q:パトリック・チャン選手と浅田真央選手の復帰についてはどう思われますか?

オーサー:とても勇気あることだと思うよ。パトリックも浅田真央も休んだのは1年だけ。それほど長い休養というわけではなかったけれど、2人にはまだやり残したことがあったんだと思う。僕の教え子たちにとっても、これはいいことだ。特に僕の息子たちにはね。パトリックの復帰が新たなモチベーションとなり刺激になって、彼らを前に進ませてくれている。いいライバル関係だと思うよ。

Q:ハビエルと羽生がさらに向上するにはどうすればいいのでしょうか?

オーサー:1年、1シーズンごとに考えていくべきだと思う。2人ともそれぞれのスタイルで向上しているよ。つなぎとか、振付とか、その他いろんな面でね。特に羽生は、技術面で自分自身に挑戦し続けている。次のオリンピックのために、自分のポテンシャルをかき立てようとしているんだ。羽生もハビエルも今の男子フィギュア界を引っぱっているリーダーだ。彼らはこれからもリーダーであり続けると確信しているよ。

Q:コーチにとっても選手にとっても、自信を持つことはとても大切なんでしょうね?

オーサー:自信はとても大事だよ。特に今年のハビエル。ワールドで優勝したときは彼のことがとても誇らしかった。彼は今もなお意欲を持ち続けているし、世界王者というタイトルにふさわしい活躍をしてる。羽生もそうだ。五輪チャンピオンという称号にふさわしい振る舞いをしている。2人とも向上心と競争心を持ち続けている。これは大切なことなんだ。もうすでに頂点に立っていても、競争心を失わないことが大事なんだ。
 
Q:2人が競技中どんなことを考えているのか、とても興味があります。教えていただけますか?

オーサー:2人ともとてもいい練習ができているから、自分に自信を持っていると思うよ。選手にはプレッシャーはつきものだ。そんなとき、いい練習ができていれば、自分がやってきたことを信じることができる。自分の練習を信じろ――これは僕が教え子たちにいつも言っていることだ。宿題をきちんとやっていれば大丈夫。これは間違いない。
 
Q:コーチとして、他のコーチたちの参考になるような経験を何かお持ちですか?

オーサー:僕の秘訣を暴露しろって言うのかい?(笑) いや、冗談だよ。秘訣なんてものはないんだ。ただ生徒のことをよく知ること、生徒を理解すること、生徒によく練習をさせ、日々の練習をエキサイティングなものすること、それだけなんだ。特に、彼らをよく理解することはとても重要だよ。選手はひとりひとり違うから、練習方法も異なってくる。とにかく、彼らが彼ら自身を信じられるようにすること。そして、彼らが毎日リンクにやってきたとき、自分はコーチたちからケアされていると感じてもらうようにすることだ。
 
Q:スケートが好きな若い人たちに何かアドバイスがありますか?

オーサー:滑ることが大好きなら、趣味でスケートするのはとてもいいことだよ。スケートの動きや、氷の上で自分は自由なんだと感じられる感覚。スケートって誰にとってもいい表現手段なんだ。選手であろうと趣味スケーターであろうと、スケートというものがあることは、僕らにとってとても幸せなことだ。自分を表現できるものなのだから。そうやって滑り続けて、自分を表現し続けて、なおスケートを愛し続ける。それが僕らがやってることなんだ。
 
Q:カナダのスケーターと中国のスケーターはどう違いますか?

オーサー:システムが違うから、性質も違ってくるだろうね。中国のコーチやスケーターたちは、より練習にエネルギーや知識を費やすようになったと思うよ。彼らはいろいろなコーチや振付師の指導を仰いでいる。中国人は自分たちに足りないものを認識していると思う。だから海外に目を向けて、一番ふさわしい人間に指導を受けることができているんだろうね。
僕のところにも申し出が来たことがあるよ。僕とトレイシー(ウィルソン)とで彼らの指導を引き受けたんだ。トレイシーはペアチームの指導を担当した。僕も彼らのウォーミングアップと練習を見たけれど、一定の効果はあったと思うな。
でも、僕についていえば、自分がカナダ人だからといってカナダ選手だけ、ということはないんだ。自分はグローバルな(国を超えた)コーチだと思ってる。どこの国の選手であろうと、フィギュアという競技全体を前に進ませたいと考えているんだ。僕のところにはいいカナダ選手もいれば、スペイン選手も日本選手もいる、そんなコーチさ。


Q:中国とカナダの練習のシステムには、それぞれどんな良さがあるのでしょうか?

オーサー:それぞれの良さがあるよ。中国では力を認められた選手は練習費用のほとんどを国が出してくれるんだったよね? それはすばらしい長所だ。北米ではこういうケースはほとんどないからね。でも、どうなんだろう。経済的な部分以外はそんなに大きな違いはないんじゃないかな。
さっきも言ったように、中国選手は積極的に海外にアクセスして、いろいろな人材に指導してもらっている。これは賢いことだ。コーチとして僕にわかることは、僕にはすべてのことは網羅できないってこと。だからスケーティング、スピン、振付と、それぞれの分野で最適なスタッフとチームを組んでいるんだ。スタッフみんなが力を合わせて、選手の指導にあたるのはすばらしいことだし、一番効果がある方法だと思う。だからこそ、中国選手もこの方法を取っているんだよね。今後、要注目だよ。


Q:今日はどうもありがとうございました! 教え子の息子さんたちの活躍を祈っています!

オーサー:はっはっ、ありがとう!

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エルモ 相手が中国メディアということを、とても意識したインタビューですね。このあたり、オーサーは頭がいいな、といつも思います。
中国選手が最近、ローリーやジェフといった北米の振付師に多く依頼しているのは知られていると思いますが、オーサーやトレイシーも指導を依頼されていたんですね〜なるほど。

そして……2022年に北京で開催が決まっている冬季五輪では、おそらく羽生くんとハビとは一緒じゃないだろう、という話。
ハビは年齢的にもおそらくそのつもりでしょうし、羽生くんもとりあえず平昌五輪までしか決めてないでしょうからね、全然意外な話ではないのだけど、オーサーの口からはっきり聞かされると、ああ、やっぱりか…と若干ちょっと寂しさが…><
まあ、羽生くん自身が言っているようにこの先どんな展開になるかわからないし、オーサーの言葉を文面どおり受け取ればオーサーじゃないコーチと2022年出る可能だってなきしもあらずなんだし(笑) とりあえず今の段階でファンがくよくよしてもしょうがないですね!
2022年に同行するかも、という文脈でジュンファンくんの名前だけを出したのは意外でした。まさかナムくんのことは忘れていないでしょうから、これは相手がアジアのメディアだったから、ということだったのかな? でも、とりあえずジュンファンくんのことをかなり有望視しているのは確かですね!なるほどなるほど〜。


*今回翻訳の許諾にあたっては 、爱滑冰のJさんにとても迅速に対応していただきました。ありがとうございました<(_ _)>

JUGEMテーマ:フィギュアスケート
カテゴリ:コーチ・振付師 | 17:48 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
ブライアン・オーサー@Skating China「僕らにはスケートという共通語がある」
前回に引き続き、今回も中国メディアによるブライアン・オーサーインタビューです。オーサーさん、近ごろ精力的に中国メディアの取材にこたえていますね〜。
今回の記事はSkating Chinaというサイトから。こちらも比較的新しくできたフィギュア専門サイトのようです。
公式サイトは→こちら。海外選手や振付師など、インタビュー記事がものすご〜く充実しています。ほとんど中国語ですが、英語バージョンがある記事もありますので、よろしければのぞいてみてくださいませ〜。

今回のオーサーインタ。羽生くん、ハビ、ナム、そしてクリケットに新しく仲間入りしたジュンファンくんの話をまじえながら、オーサーのコーチ哲学が、これでもかこれでもかとたっぷりと語られています。
しかし…すっごい長いです! すいません、N杯直前のバタバタにつき推敲する時間があまりなく、かなりざっと訳になっちゃっていますが、最後まで読んでいただけたら苦労が報われます!^^;

元記事はこちら(英語版)→Brian Orser: We All Speak the Same Language of Figure Skating



「ブライアン・オーサー 僕らにはスケートという共通の言葉がある」

歓声とかけ声につつまれて、最後のスピンが終わった。リンクの真ん中に立っているのは、男子フィギュアスケートのトップ選手の1人だ。荒く息をつきながら、クリケット・クラブのコーチや振付師、選手たちに囲まれている。
やがて次の選手が登場すると、今度はその選手に向かって声援が飛ぶ。「がんばれ!」「もっともっと!」「きっとできるよ!」
そんなクラブの雰囲気について語りながら、オーサーは楽しそうに目をきらきら輝かせた。
「みんながお互いに助け合っているんだ。普通なら途中ですぐやめてしまいがちだけど、みんなが支えてくれるおかげで最後まで滑りきることができる。選手にとってはありがたいことだよ。そうやって、また次の通し練習を始めるんだ」

オーサーによると、通し練習というのはとてもいいテストなのだそうだ。
「プログラムを初めて通しで滑るときは、ボロボロな演技になってしまうものさ。自分で自分を苦しい状況に置かなくてはだめなんだ。通し練習をすることで、少しずつ、1日ごと、1週ごとに、プログラムはよくなっていく。パートごとに分けて練習するのはその後さ。これは僕ら独自のメソッドだけど、効果を発揮していると思うよ」

ロシアや中国では、通し練習は選手への負担が大きすぎるとして避けるコーチが多い。だが、オーサーやトレイシー・ウィルソンなど、自分たちのことを「昔ながらの古いタイプ」と言う北米のコーチたちは、通し練習を重視する。
それでも、スパルタ式になりすぎないように配慮している。そのひとつが、大技を抜いて通し練習をするという方法だ。例えば4Sのところを3Sにすれば、身体にかかる負荷は4Sのときと同じだが、怪我のリスクは少なくなる。ジャンプを簡単なものにすると、プログラム後半で集中力を高めるよう指導しやすくもなる。ただし、トップ選手において「簡単なジャンプ」というのは、プログラム中にクワド1本、3Aが2本、そのほかのジャンプが5本、といったレベルではあるが。



こうした通し練習は1年中やるわけではない。クリケット・クラブでは、春の間(5、6月頃)はスケーティングスキルを集中的に指導する。ジャンプやスピンはおこなわず、ストロークを繰り返し練習するのだ。ただ滑るのではなく、片足の上からもう片方の足をどうクロスすればいいのか、ブレードをどう使えば加速するのか、といったことを教えるためだ。その後、スピン練習の時期になれば、力を入れずに回転速度を最大にする方法を学び、練習スケジュールに振付が加わってくれば、新しいつなぎを習得しながらスケーティングスキルをさらに磨いていく。
夏になって選手たちの体の状態が向上してくると、クワドを含めた新しいジャンプに取りかかる。夏の途中から通し練習を始めることになるが、その時期は各選手のスケジュールによってまちまちだ。早めの大会に出場する選手はほかの選手よりも早く通し練習を開始する。オーサーが大切にしているのは、各選手にふさわしいピーキングだ。選手には「ちょっぴりハッパをかけなくちゃならないが練習させすぎてはダメ」――それがオーサーのモットーだという。

トレイシー・ウィルソンをはじめとしたエキスパートたちの力を借りながら、総合力の高い選手を育てるのがオーサーの狙いだ。
「シニア選手として試合に出るからには、リンクをまんべんなく使い、スピードをもって滑り、パトリック・チャンのようなディープエッジを備えていなくてはならないんだ」
ジャンプを得意とする羽生やフェルナンデスは今、スケーティングスキルやつなぎの向上に懸命に取り組んでいるところだという。クワドへの入りを難しくすれば、一時的にジャンプミスは増えてしまうが、それだけのメリットはある、とオーサーは自信を持っている。
「今の新採点システムに変わったとき、僕はすぐに受け入れた。最大の点を得るにはどうすればいいか、知恵を絞ったよ」

今話題の中国のボーヤン・ジンについては、脅威を感じるというよりも、ただ驚かされたという。ジンは先日の中国杯で、SPで4Lz-3Tのコンビネーションを、フリーでは予定していた4本のクワドのうち3本を降りた(着氷はややおぼつかなかったが)ばかりだ。ただし、ジンの場合、高難度ジャンプへの入りがそれほど複雑ではないため、TR(つなぎ)は7点前後にとどまった。それでも、中国杯で優勝したフェルナンデスとの差は総合で10点以下。現世界王者に脅威を与えたのだ。
オーサーは自分の教え子たちに、ジンのような才能ある新しい選手を見ておくようにと言っているそうだ。そのことで彼らの競争意識が維持されるからだ。ただし、今のところは、教え子たちのほうがいろいろな面で優れている、とオーサーは考えている。
「ハビやユヅのほうが(ジンよりも)若干成熟しているね。僕らはつなぎを重視しているけれど、エレメンツも重要と考えているんだ。試合で勝敗を決めるのはエレメンツのGOEだからね。スピンやステップ、コレオシークエンスも含めたエレメンツを、完璧にこなすこと。それができるかどうかで大きな違いが出るんだ」



オーサーがこれほど自信を持っているのには理由がある。2011年にハビエル・フェルナンデスが最初にトロントにやってきたとき、彼はオーサーに言わせれば「粗が目立つ、雑な」選手であり、「ひどいスピン」でレベル1か2しか取れない選手だった。だが、わずか2、3か月後のスケート・カナダで、フェルナンデスのPCSは急上昇した。同じ2011年の世界選手権に比べると、フリーのPCSが16点も上がったのだ。これにはオーサーもびっくりしたという。
この躍進の理由は、コーチたちが辛抱強くフェルナンデスを練習させたことと、そのシーズンのプログラムの良さにあると、オーサーは考えている。クリケットのコーチたちはフェルナンデスに対して「何から何まで面倒を見ながら」、演技を少しずつ洗練させていった。彼が興味を失わないよう、一度に多くのことを教えすぎないようにした。その頃のフェルナンデスは「才能はあるが怠け者」として知られていたのだ。
フェルナンデスがリンクでの練習時間を大切にし始めたのは、スペインからの公的援助が打ち切られ、レッスン代を自分で払うようになって以降だったという。
「彼にとっては、援助が打ち切られたのはベストな出来事だったんだと思うよ。今はスケートにかかる1ドルに至るまで責任もって使うようになったよ」

ナム・ニューエンは、2015年世界選手権で5位に入った、クリケットの新しいスターだ。彼もまた、羽生やフェルナンデスと同じ道を歩んでいる。すでにジャンプの安定感を身につけており、最近はスピンの向上に励んでいる。今後はつなぎを強化する計画だ。
ただし、オーサーは、ニューエンがスケーターとして、そして人として成長するまで、辛抱強く見守るつもりだという。
「ユヅとハビも長い時間がかかったからね。ナムはまず、身体的に成熟する必要があると思う」

教え子のひとりである韓国の若手、チャ・ジュンファンの話になると、オーサーは目を細めた。以前、ある大会でチャと出会い、話をしたというオーサーは、彼のテクニックと体の内側からあふれ出てくる純粋な表現力に惹かれたという。
「まだたった13歳なんだが、まるでシニアのような滑りをするんだ。これほどワクワクしたことは長いことなかったよ」
チャは夏の間に足を骨折していたが、10月にはオータム・クラシックのジュニア部門で優勝を果たした。

選手がもっている能力をコーチは信頼するべきだ、とオーサーは言う。教え子たちがジャッジから高い評価を受けているのは、2度の五輪銀メダリストという僕自身の名声とは何の関係もないよ、と彼は言う。選手たち自身がすばらしい演技をし、鮮やかな印象を残しているからに他ならないのだ。
選手たちに対しては厳しいほうだと彼は言う。プライベートリンクを使った練習では、選手の出来が悪いときにはひどくしかりつけることもあるそうだ。
「そう、常にこんなふうに穏やかなわけじゃないんだよ。でも、ハビの場合…ユヅもそうなんだが、2人はそんな僕のやり方を理解し、尊重してくれるんだ」

高い技術力を追及しているチーム・オーサーだが、よいスケーターであるために最も重要なものは「情熱」だと、オーサーは言う。教え子の中には、主要大会でチャンピオンになることは決してないような選手たちもいる。そんな選手たちも技術を学んだり自分を表現したりすることが大好きだし、スケートに一生懸命打ち込んでいる、だから彼らに教えるのが楽しいのだと、オーサーは言う。
選手のために練習メニューを組んだり、自分のオフィスで選手と話をすることもある。そんなとき、選手たちが練習時間以外でもそれぞれ努力していることを知るのだそうだ。特にユヅとハビ、ナム、エリザベート・ツルシンバエワのような、懸命に努力する選手たちを指導できるのは幸運なことだ、とオーサーは考えている。努力は教えてできるものではないからだ。みんなに尊敬をもって接することや、コミュニケーションをとれることも大事な要素だ。教え子には、いい人間になること、マナーある態度をとることを指導している。

さまざまな国籍の選手をかかえるオーサーだが、コミュニケーションに壁はないのだという。
「僕らはみんな、フィギュアスケートという共通の言葉をもっている。僕は身振り手振りをよく使っているよ。僕自身、まだ氷上で動けるから、自分で選手たちにやって見せることができるからね」
羽生とは、最初のころは誤解が生じることもあった。
「たとえば、“ルッツをもう3本跳んでごらん”と言うと、彼は3回転フリップを1本跳ぶ、ということもあったよ。そんなときは“ちょっと戻ってきて”と彼を呼んで、何が問題なのか確認し合ったよ」
今は羽生の英語も上達し、オーサーもよりはっきりと効果的に指導する方法を見出したおかげで、そんな問題が起こることはなくなったそうだ。



オーサーはまた、それぞれの教え子の文化的背景を理解することも重要だと考えている。今季は偶然、羽生もフェルナンデスも、それぞれの国の文化をプログラムのテーマに選んだ。オーサーは2人の選曲にはかかわっていないが、賢明な選択だったと考えている。ただし、「こういう選択はふさわしい時期を選ぶことが大切なんだ」と話す。
今から2、3年前、テレビでフェルナンデスによく似たモダン・フラメンコのダンサーを見たことがあった。だが、フェルナンデスがフランメンコを演じるにはもう1年必要だと思ったのだという。そして、今年がその時期だったのだ。
羽生の「和」のプログラムは、オーサーにとってはあまりなじみのないものだった。プログラムの主役である「陰陽師」は戦士やサムライのようなものなのだろうと、オーサーは解釈している。プログラムについては振付師のシェイリーン・ボーンに全面的に任せている。ボーンは羽生と一緒に「能」についてリサーチをおこなった。その結果、「ただ曲に合わせて滑るのではなく、陰陽師の世界を正しく解釈し、それに合ったふさわしい動きをつくり出さなくてはならない」という結論に行きついたのだという。

ボーンが羽生の振付をするのはこれが2作目だ。オーサーは、同じ振付師とずっとやっていくほうが力を発揮しやすいと考えている。クリケット・クラブとしても、長く手を組んでいるデビッド・ウィルソンやカート・ブラウニング、ジェフリー・バトルといった振付師といい関係を築いてきた。とはいえ、選手が成長するには新しいスタイルを試すことも大切だと考えている。
フェルナンデスがトロントにやってきた最初の年、彼はバレエのプログラムを滑りたいと、少々おずおずと(たぶんそれまでの自分のイメージとかなり違うと思ったのだろう)申し出てきたという。最終的にクリケットがつくり出したのが、あの『ヴェルディ・メドレー』だった。フェルナンデスらしいユーモア精神をキープしつつ、若いイメージがあった『パイレーツ・オブ・カリビアン』よりもっと深みを増したプログラムになった。
「フェルナンデスの本当の実力とはどんなものなのか、僕らは毎シーズン、どんどん学んでいっているんだよ」
この言葉に、コーチとしてのオーサーの姿がよく表れていた。

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てれネコ オーサーってビジネスマン的な冷徹さと、スケーターに対するパパ的な愛情と、両方あわせもった人だということがよくわかるインタビューですよね。でも、一番大切なのは「情熱」と言い切るところは、パパ的サイドの勝利なんでしょうか?
とにかくすべてにおいてレベルの高いスケーターというのが、オーサーの理想なのですね。たぶん羽生くんのこともハビのことも、まだまだ成長の余地はたくさんあると思っていそう。なんとなくですが、ハビは「ダメダメ選手」(笑)からかなり理想に近いところへ成長させてきたという手ごたえを持っているんじゃないかなと思うんですが、羽生くんについてはどう考えているんでしょうね? 今の羽生くんがどのあたりの場所にいて、どういう形を彼の完成型として描いているのか、一度オーサーに聞いてみたい気がします。(なんせ残された時間が短いので…泣)
個人的にはチャ・ジャンファンくんへの言葉にちょっとひと安心。彼の個性を生かしつつ伸ばしてくれそうで、これからが楽しみです!

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