おなじみのTSL(The Skating Lesson)から、あのフィリップ・ミルズ先生のインタビューがアップされました。
ミルズ先生といえば今やすっかり町田樹!…ですけど、もともと体操選手からバレエダンサー、そしてフィギュアの振付師に転じた方で、ミシェル・クワンやサーシャ・コーエン、アシュリー・ワグナーなど主に女子シングルの数々のスター選手の振付をされてきた方。TSLのジェニー(ジェニファー・カーク元選手)も昔、振付してもらったことがあったんですね。来季はマックス・アーロンをバレエダンサーとして変身させることができるかどうかも注目です!
そんなミルズ先生のロングインタビューのPart1から、主に町田くんとアーロンくん、そして振付全般にかかわる部分を抜粋して訳してみたいと思います。私が聞き取れた範囲なのでヌケ、漏れ、ミスなど多々あるかもしれません。また、申し訳ありませんがミルズ先生の経歴や北米女子選手たちについての部分は割愛させていただきました。
ミルズ先生、私が思っていたよりもずっと気さくで、チャーミングで、エネルギーにあふれた方でした。よろしければ一度元動画も見てみてくださいね。表情豊かで、めっちゃお茶目で、テンション高い! そして、言いたいことや考え方が非常に明瞭な方だと思いました。
元インタビュー動画は→
Part One of our Interview with Phillip Mills May 12, 2015
The Skating Lesson: Interview with Phillip Mills Part One
デイブ:フィリップ・ミルズさんにはジェニーも振付してもらったことがあるんだよね?
ジェニー:そう、2002シーズンのはじめごろの話よ。バレエを取り入れたプログラムを作ってもらったの。私はバレエは苦手だったけど、フィリップとの振付は楽しかった。彼がリンクに降りてきて、一緒にシミー&シェイキー(ゴーゴーダンス)をやったのを覚えているわ(笑)。2人でバスルームの鏡に何時間もむかって、メイクアップの指導を受けたこともある。スモーキーアイ(黒やグレーでしっかりと陰影をつけたアイメーク)のつくり方を教わったの。とても個性的で楽しい人よ。ここ20年のフィギュア史でユニークな活躍をされてきたわ。今季はマックス・アーロンに振付していて、どんな成果が出るか楽しみね。ここ数年の町田樹との仕事はすばらしかったわ。
ミルズ:僕を招いてくれてありがとう。ずっとこれに出演してみたいと思っていたんだ。楽しみだよ。
(中略)
バレエダンサーからフィギュアスケート振付師に転向して、シングルの選手の振付を多く手がけるようになったとき、カルロ・ファッシ(イタリア生まれの元選手。コーチとして北米の選手を数多く育てて殿堂入りした)に、こう言われたんだ。「テニスを教えるならラケットを握らなくちゃ」って。それで、自らスケート靴を履くようになった。
だが、滑ってみたら派手に転んでばかりなんだ。僕が一番苦手だったのはバックのクロスだった。バレエの「ターンアウト」(股関節を外向きに開いて足を180度開くこと)が身についていたせいで、両足を並行にしてステップを踏むことができないんだよ。それで、自分のためのエキササイズを始めて、基本的なスケーティングやブレード使い、ターン、チェックなどを習い始めた。その後、このエキササイズをセミナーにして、スケーターやコーチ向けに教えることになったんだ。要は、昔自分が習ったことを教えているんだよ。
ミルズ:マックス・アーロンが最近、あるインタビューで、このセミナーのことを話していて、わくわくしてしまったよ。「スリーターンが正しく滑れるようになっておもしろい。グライドしている感じがするようになった(=滑るようになった)んだ」と言っていた。これは本当にすばらしいことだ。こうしたことを学ぶのは時間がかかることだからね。
ミルズ:町田樹とは3年間、一緒に仕事をしたんだけど、まず彼のマインドセットを変えなくてはならなかった。なぜなら男子トップスケーターというのは、ジャンプをメインに考えがちなものだからね。でも、樹のマインドセットを変えるのは簡単だった。彼にはその素地があったから(he was ready=彼は受け入れる準備ができていた、という感じです)。
1年目のシーズンは、彼に主に2つのことを変えてもらいたいと言った。1つめは呼吸、2つめは着氷のポジションだ。すると彼は、「それはどちらも結構ですので、ただ振付をお願いします」と言うので、私は了解して振付だけをおこなった。彼はまあまあの成績をあげたが、ワールドには出場できなかった。すると2年目のシーズンに、コーチと一緒に僕のところへ来て、「すべてあなたの言うとおりにします」と言うんだよ。それで僕も、「よし、じゃあやってみよう」と。そこから僕のクラスに出てもらうようになったんだ。バレエクラスみたいに毎日おこなうクラスだ。今マックスにも出てもらっているんだけど。
このクラスで、僕は樹にあることをやってもらった。すべての動作を、彼が得意な方向と不得意な方向の両方向でやってもらったんだ。例えばクワドや3Aの入りを、最初は右ききの方向で、次は左ききの方向でやらせた。ジェニー、君もバレエクラスに出たからわかるよね。バレエダンサーはこれを猛練習して、観客がこのダンサーは右ききなのか、左ききなのか、わからないようになるまで努力するんだ。ターンもピルエットも両方向でできるようにね。この練習はフィギュアスケートで大いに役立つものだと、僕は考えている。多くの選手は自分がどちらのターンが得意かもわかってないからね。
(中略)
デイブ:あなたの振付は細部まで非常に精巧につくられた、凝ったプログラム、という特徴がありますよね。「フィリップ・ミルズのプログラム」といった場合、どんなイメージを人々に持ってほしいと思いますか?
ミルズ:まず第一に僕が思うのは、あるプログラムを見て、これはフィリップ・ミルズのプログラムだとは思ってほしくない、ということなんだ。それが僕のトップ・プライオリティ(優先事項)だ。なぜなら、振付というのはスケーターのためのものであって、僕のためのものじゃないからね。
不幸なことに、僕は音楽がかかると動きが見えてしまうんだ。なぜかはわからない。家族と店の中を歩いていたり、エスカレーターに乗っているときに音楽がかかっていると、妻のミシェルに「やめて」って言われるんだよ(笑)。自分では自分の体が動いている自覚はないんだよ。子供たちにも「パパ、ダンスはやめてよ」って言われてしまう。だから、車を運転してるときは音楽は一切かけない。音楽がかかっていると休めないんだ。音楽がかかっていると動きが見えてしまうんだよ。まあ、これはラッキーな才能と言えるかもしれないけどね。
でも本当に、「ああ、フィリップ・ミルズらしいプログラムだ」とは思われたくないんだ。それが一番ぞっとすることだよ。なぜなら、僕が僕自身を繰り返している、ということになるからね(←repeating myself=ややわかりにくいですが、各選手に合わせるのではなく毎回自分のしたいことをなぞっているだけ、ということかと思います)。それはしたくない。僕がやりたいのは、選手や観客やジャッジ、そして君たちみたいな批評家などに、彼らをインスパイアするプログラムを提供すること。それが僕の義務だと考えているんだ。彼らが感じたいもの、見たいものを創り出すことが僕のトップ・プライオリティーなんだ。
ミルズ:例えば、樹の「ラベンダーの咲く庭で」は、テーマはまったく違うものだけど、僕は人々がこのプログラムを見て、これは自分の助けになるプログラムだと思ってくれたら、と願っているんだ。僕はいろいろなものにインスパイアされながら、それぞれのスケーターにふさわしいプログラムを与えようとしている。そのスケーターの芸術面を伸ばすだけでなく、競技的にも成功できるような、そして可能ならば世界をインスパイアできるようなプログラムをね。そのプログラムによって、スケーターがただアスリートであるだけでなく、アーチストにもなれるようなものを作りたいんだ。そして、僕が思うに、町田はそれをなしとげた。僕にとって、これまでの教え子の中で彼がベストだ。この3シーズン、彼と仕事ができてとても幸運だったよ。
デイブ:あなたはスケーターに、振り付けたとおりの動きやつなぎを崩さないよう、厳しく指導することで知られていますが、スケーターはある段階でジャンプを降りることでパニックになってしまい、振付を省いてしまいがちなのでしょうか?
ミルズ:そう思うよ。これはノービスからシニアの五輪レベルの選手まで、あらゆるレベルの選手に言えることだと思うんだけど、ジャンプをプログラムに入れ始める段階になると、混乱し、パニックになってしまうんだ。ここでも出てきた2人のトップスケーターの例を挙げよう。