カナダのレジェンド、カート・ブラウニングのロングインタビュー「後編」です。(前編は
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今回はその天才的な(?)振付手法の話から、解説者としての話、さらに今のスケート界やスケーターの話まで、あいかわらずのマシンガントーク炸裂です!長〜いですが、じっくりおつき合いください。
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Kurt Browning - twenty years a pro and still going strong
「カート・ブラウニング:プロ20年を経てなお現役」【後編】
Q:あなたはこれまで100以上ものプログラムを滑ってきましたが、今でもどんどん新しいアイディアやコンセプトがわいてくるんですね。なぜ常にインスピレーションを受け続けていられるんでしょう? アイディアはどこからわいてくるんですか?
カート:正直に言うと、僕の場合そんなに深いアイディアじゃない。ただ音楽を聞くと自然に浮かんでくるんだ。たとえば、僕がずっと転んでばかりいるプログラム(
「Slippery Side Up」)があるけど、寝っころがって目を閉じてあの曲を聞いていると、転んでは立ち上がろうとして、また転んでは立ち上がろうとするイメージが浮かんできたんだ。曲をもう一度かけても同じことが起こったのさ。
Q:最近はほかの振付師に頼むことが減ってきましたよね。自分のプログラムを自分で振り付けることが増えているように思えますが。
カート:まあそうだね。でも僕はただ、自分がやりたいことを形にしようとしているだけなんだ。意図的に他の振付師を拒んでいるわけではないよ。ウィーバー&ポジェの振付もしているリンダ・ガルノーにやってもらったこともあるし、
帽子のプログラムは主にジェフリー・タイラーによるものだ。全体をまとめたのは僕だけど、コンセプトを考え出したのは彼だからね。でも
「Trust in Me」については、自分の中ですごくクリアにイメージが浮かんだんだ。“僕を信頼してほしい”というタイトルだけど、見ている人が信頼してはいけないような、あやしい人物を演じたいと思った。騙されてはいけないよ、と。
Q:1980年代のヒットソングを使った、ハビエル・フェルナンデスのエキシビション(「エアロビック・クラス」)。あれはあなたの振付ですが、ファンに大人気でしたよね。あのプログラムはどのように誕生したんですか?
カート:ブライアン(・オーサー)とハビに頼まれたんだ。おかしな(funny)プログラムを作ってくれって。僕は「fun or funny?」とたずねた。「楽しい」と「おかしい」は違うからね。彼らは「おかしなプログラムがいい」と答えた。そこで僕は目を閉じて、ハビのどんなところがすばらしいか、考え始めたんだ。彼は声がすばらしい。アクセントもすばらしい。北米人からすると、あのアクセントは必須要素だ。じゃあ、彼の声を入れるべきだって考えた。
次に、「おかしいものとは何か?」を考えた。で、80年代の音楽はおかしいじゃないかってことになった。それから、これは僕の妻のソニア(・ロドリゲス)がスペイン人でダンサーだというところから出てきたんだと思うけど、ハビは踊れるだろうか?闘牛士を演じられるだろうか?って考えた。そうして、なぜだかこう思ったんだ。ハビがすごくおかしいといえば…そうだ、エアロビクスだ、って。よくわからないけど、ただそう思いついたんだよ。
振付師のサンドラ・ベジックはこのプログラムが大嫌いだったんだ。彼女は僕とブライアン・オーサーの面前で、これ嫌いよって言ったことがある。でも、彼女が嫌いと言ったのは、untrained(素人くさい、未熟)だから、という理由なんだ。確かにハビはしっかりと作りこんではいなかった。もともとの振付には、もっときめ細かい凝った動きがたくさんあったんだ。ユーモアというのはきめ細かくないといけないものだからね。ところがハビはそのあたりをきちんとやっていなかった。だから、サンドラがそう言うのも僕はわかるんだよ。
それでも、任務を果たすことはできた。ハビとは何者なのか、人々に示すことができたからね。みんなあのプログラムを見て、ハビがどんな人間か、強く感じることができたと思うんだ。そう、彼は今や「ハビ」、「スーパーハビ」だよね。あのプログラムはすごく彼の役に立ったと思う。それに楽しかったしね。すごく楽しいプログラムだった。
Q:ここ数年、あなたはどの選手にも競技用のプログラムの振付は絶対にしない、というポリシーを貫いていますね。でも、きっと依頼はたくさん来るんでしょうね。ポリシーのわけを説明してもらえますか?
カート:2つの理由があるんだ。ちょっと変わってるかもしれないけど。自分が手がけたプログラム(を滑っている選手)の解説をすることには、いい面もあるんだろうと思う。人々に伝えるべき内部情報をもっているわけだからね。でも、よくない面もあるんだ。見る人にとって解説者は公平でなくちゃいけないから。実際にはもちろん僕らだって公平ではない。カナダ人だし、友達関係もあるからね。
でも、それは理由のひとつにすぎないんだ。僕が競技プロを引き受けない大きな理由は、競技プロの振付ができるほどルールを知ってるわけじゃない、ということなんだ。当の選手にとっても、これはよくないことだよ。僕はほかの人にちょくちょく指導してもらいながら振付せざるをえないから。そして、これには時間もかかる。とほうもない時間がね。僕にはそんな時間はないんだ。本当にストレスがいっぱいなんだよ。僕は今、生活のいろんな方面から引っ張られていてね。
とにかく時間はないわ、そんな振付を楽しいとも思えないわ、ほんとに「三振、アウト」って感じだったんだ。僕がスケートをするのは楽しいからさ。みんなにもスケートを楽しんでほしい。ところが、これ(競技プロの振付)は楽しくなかったし、選手にとってもフェアじゃないと思った。だから、もうやめてしまったのさ。
Q:あなたは長年フィギュアの解説をされてきましたが、オリンピックの解説は今回が初めてでしたね。いかがでしたか?
カート:オリンピックについて自分の考えや意見を言うなんて、ものすごく責任重大なことだ。僕はこの仕事を重く受け止めて、自分のベストをつくそうと努力した。苦労したのは、フィギュアスケート的には今回のオリンピックは波風の立たないものではなかったこと――まあ、いつだってそうなんだけどね。そのせいで、できれば話題になってほしくなかった話題について、かなり多数のインタビューに答えなくてはならなかった。それでも、ソチという場所はすごく気に入ったし、すばらしい経験だったよ。幸運にもまたやらせてもらえるチャンスがあったら、僕はきっと飛びつくね。
[*カートの言う“話題”とは、大議論が巻き起こった女子の採点問題や、カナダ男子悲願の金メダルが取れなかったことなどを指すのかなと思います]
オリンピック解説で心がけていたこと、そして時に難しいなあと思ったのは、自分語りにならないようにしなくちゃ、ということだった。オリンピックの現場で起きていることだけを伝えなきゃ、と思っていた。じつは、ツイッターでこんなことを言われていたんだ。「なぜあなたはすぐ自分のキャリアの話を持ち出すの?」って。僕だって持ち出しすぎないようにはしていたけど、でも僕がこの仕事を頼まれたのはそのためだろう? オリンピックの舞台に立って、これから自分の人生が変わっていく…それがどういうものなのか、僕は知っているんだ。でもスケートは水物で、どっちに転ぶかわからない。そんなときには自分自身のキャリアを引き合いに出すしかないんだよ。それでも、僕は「ごもっともです。あまり頻繁に持ち出さないようにしますよ」って返事をする。言われたことにいつも賛成できるわけじゃないけど、とりあえずツイッターの人たちに「はいはい、そうですね」と言っておくこともあるよ。意地悪な意見であっても、いいアドバイスもあるからね。
Q:最近はショー出演や解説や振付だけでなく、いろいろなことでいつも大忙しのようですね。ほかにどんなことを抱えているんですか? 何か課外活動でも?
カート:僕の課外活動は、僕の2人の子どもたちだと思う。今までよりもっと家にいられるように努力しているんだ。この1年は忙しかったよ。
「雨に唄えば」をより多くの観客に披露するために――自分自身このプログラムを楽しんで滑りたいと思っていたし――ショーの数を増やしていたから、忙しくなるのはわかっていた。最後に「雨に唄えば」を滑ったのは3月の「Art on Ice」ヨーロッパツアーだったんだけど、怪我のせいであまりいい演技はできなかったな。その後もいろんな誘いを受けているけど、かなりのショーをことわっているんだ。ことわることは、実際やてみると思っていたより簡単だった。これまでいいキャリアを送ってこれてありがたいと思っている。今はもっと家ですごすべき時期なんだ。
Q:現在の競技スケートについての質問です。今季はシングルとペアでも歌詞入りの曲を使えるようになりますが、これについてどう思いますか?
カート:歌詞が導入されることで、僕ら(解説者)が話すべき話題が増えることは確かだね。ただ、演技中に解説するという点では、やっかいごとが増えることになる。スケーターが演技しているのにかぶせて解説をするのは難しいものなんだ。僕らがどんなに有意義なことを言おうと、演技を邪魔しているだけだからね。今度はさらに歌詞まで邪魔してしまうことなる。見ている人はエキシビションほど歌詞に注意を払うことはないだろうと思うけど、解説者としては乗り越えなければならないハードルが増えることになるね。
僕がどう思うかって? 楽しみにしているよ。でも、プログラムによってはとても効果があるだろうけど、歌詞が命取りになる場合もあるだろう。それがすごく心配だよ。ただし、アイスダンスを見ている限り、歌詞に気をとられることはめったにないから、この点については僕は楽観視してるけどね。
Q:先日、ISUのチンクワンタ会長がフィギュアスケートについて大胆な変革を提案しましたね。この改革案についてはどう考えますか?
カート:その質問にはひとつの答えじゃ足りない。論文が必要だよ。もしも僕がその質問に的確に答えられるほどフィギュアについての知識をもっていたら、自分が会長に立候補しようとするだろうね。でも、一般的な原則として、フィギュアスケートのことはフィギュアスケーターが運営すべきだとは、単純に思うよ。
Q:スケーターはよく、子供のころ刺激を受けた選手は誰?と聞かれますが、あなたが今、刺激を受けている選手は誰でしょう?
カート:今かい? まずテッサとスコット、特にスコットだ。なぜなら僕と同じく男子スケーターだから。そして彼の演技を見ていると、この人こそ氷上で本当に演じることができる人間なんだなあ、と感じるんだ。スケーティングスキルは突き抜けているし、氷上に特別な時間をつくりだすこともできる。驚くべきペアスケーターで、超一流の選手だよ。彼には刺激をたくさんもらっているよ。それとジョー(ジョアニー・ロシェット)にも。彼女はどんどんうまくなるからね。本当にいまだに向上している。僕はそういうスケーターが大好きなんだ。
ほかにはどうだろう? ジャンプという面ではたくさんの選手がいるよ。僕は大のユヅ(羽生結弦)ファンなんだ。ユヅ、パトリック、そしてハビ。この3人の子たちにはほんと、「わーお!」ってなるよ。芸術性という面ではどうかな? 僕はシェイリーン(・ボーン)のスケーティングが大好きなんだ。彼女は常に僕のリストに入っているね。ジェフ(リー・バトル)も、振付的にとてもすごいことをやっていると思う。彼はこれから、フィギュア界で重要な一角を占めていくことになるだろうね。キーパーソンになるだろう。彼にはこれから長い振付のキャリアが待っているし、大いなる成功が待っていると思うよ。
…長い長いマシンガントークにおつき合いいただき、ありがとうございました〜!
本当に話し出したら止まらない感じですね。カートと飲み屋でスケート談義とかできたら楽しいだろうなあ。ただし、このトークをキャッチできる耳が必要ですけど(^_^;)
「スーパーハビ」の振付の話を読んで思ったのは、カートは理屈や理論で振り付けていくんじゃなくて、曲を聞くと勝手にイメージがどんどんわきあがってくるんですね。かなり感覚的というか、天才肌の人なんだなあ。確かにこの発想には競技プロの振付は合わないのかもしれませんね。
最後の写真は、美しい奥様と息子くんたちとカート。お世辞でなく本当にかわいいです、息子くんたち。「生活のいろんな方面から引っ張られていてストレスがいっぱい」と言うカートさん。ただ多忙なだけでなく、何か事情があるのかな、とちょっと心配になってしまうのは考えすぎでしょうか…。
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