もう2か月も前の記事ですみません。
世界選手権に出場するために選手がクリアしなければならない基準点、
TES最低スコア(minimum technical elements scores)についての記事があって、ISU会長やコーチ陣のおもしろい(?)発言も紹介されていて、勉強がてら訳してみたいとずーっと思っていたのです。
とっくにご存知の方には申し訳ないですが、今年の7月25日付のicenetworkの記事です。
なにしろルールとかテクニカルなことにめっぽう弱いワタシ…。もしも、もしも、誤りとか表記が違うとかあったらどうか遠慮なくご指摘いただけたら大変ありがたいです。おねがいしますm(__)m
元の記事はこちら→
TES standards could shut out small federationsBy Lynn Rutherford and Klaus-Reinhold Kany
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「TES基準点によって、小国が締め出しを食らう?」TES最低スコアの引き上げで、ISU選手権大会が狭き門に
国際スケート連盟(ISU)は、世界選手権において量より質を求めているという。「ISUコミュニケーション1742号」(原本は
こちら)で発表された技術点(TES)の新たな最低基準点がこのまま通れば、このISUの望みはかなうことになるだろう。
世界選手権に出場するための最低スコアは、これまでほとんどの選手がクリアできるものであり、どの国の連盟も毎年選手を派遣することができていた。…だが、これからは違ってくる。
新しいTES最低スコアは、ケースによってはこれまでの2倍近くにもなっている。(カッコ内がこれまでのスコア)
◆ショートプログラム/ショートダンス
女子:28 (15) 男子:35 (20) ペア:28 (17) アイスダンス:29 (17)
◆フリー/フリーダンス
女子:48 (25) 男子:65 (35) ペア:45 (30) アイスダンス:39 (27)
2013年にカナダのロンドンで開催される世界選手権にエントリーするためには、各選手(またはペア)は、ISUカレンダーの2011-12または2012-13シリーズにおこなわれる国際試合のいずれか1試合で、このTES最低スコア以上をマークしなくてはならない。ショートとフリーが別の試合であってもよい。演技構成点(PCS)は考慮されない。
2012年のニース世界選手権を例にとると、ショートとフリーの両方でこの最低スコアを満たしていた選手は、女子7人、男子14人、ペア12組、アイスダンス7組にすぎなかった。上位の選手で満たしていなかった選手には、2度のワールドタイトルを持つ浅田真央(6位)、ヨーロッパ選手権銀メダルのエカテリーナ・ボブロワ&ドミトリー・ソロヴィエフ組(7位)がいる。また、2012年ヨーロッパ選手権の女子フリーでこの最低スコアを満たしていたのは、わずか上位3名だけだった。
浅田やボブロワ&ソロヴィエフ組の場合はそれ以前の試合で満たしていたが、多くの選手たち――たとえば9度イギリスチャンピオンになっているジェナ・マッコーケルや、カナダチャンピオンのアメリー・ラコステ、オーストリアのヴィクトール・ファイファーといったベテラン選手たち――はそうではない。場合によっては、この新最低スコアのせいで世界選手権にひとりも選手を派遣できない連盟が出てくる可能性がある。また、世界選手権やオリンピックのジャッジ枠も減ることになりかねない。各国からひとりジャッジ席に座らせるには、その大会にその国の選手ひとりがエントリーしていることが条件になっているからだ。
アイルランドチャンピオンのクララ・ペーターズは、そうした世界選手権やオリンピックから締め出される可能性のある選手のひとりだ。彼女は新しい最低スコアは挑戦しがいのあるものと受け止めているという。
「去年までは、最低スコアはほとんど誰でもクリアできるものだったわ。でも今年はすごく上がってしまったから」そう語るペーターズは、ニースではショート29位に終わり、フリーに進むことはできなかった。「新最低スコアをどう考えるかって?“よし、もっとがんばらなきゃならない。もっとスピンをよくして、ステップをよくして、ジャンプもよくして。すべてを整えて、本気でがんばらないと”」
アイルランドのクララ・ペーターズ選手。
こんなことになったのは、6月第2週にクアラルンプールで開かれた第54回ISU総会がきっかけだった。ここで、世界選手権の予選を廃止し、選手が直接ショートから出場できるようにすることが、各国連盟の賛成多数で可決されたのだ。その主な理由は宿泊費だと思われる。もし本選に進めば、各国の連盟ではなく世界選手権の組織委員会が選手たちのホテル代を出すことになるからだ。
予選が廃止されるということは、たとえば女子と男子の場合、予選で振り落とされる20〜25人を含めた各50〜55人もの選手がショートに出場することを意味する。これはISUが望んでいない事態である。
「われわれの試合はお祭りなどではないんだよ」ISU会長のオッタヴィオ・チンクエンタは、たびたびそう言っている。
そこでISU評議会は、クアラルンプールの総会期間中に、世界選手権およびヨーロッパ選手権、四大陸選手権のエントリーに必要な最低スコアを引き上げることを決めたのだ。また、世界ジュニア選手権にも初めて最低スコアを導入することになった。
7月17〜21日にアメリカで開かれた2012年Liberty Summer Competitionでは、何人かのコーチたちがこの新しい最低スコアについて不安を口にした。
「一定の最低スコアがあったほうがいいとは誰もが思っているでしょうけど、上位24〜30人の選手が世界選手権への出場資格を得たあとに適用されるべきだと思います」そう言うのはエストニアのチャンピオン、エレーナ・グレボワのコーチをつとめるクレイグ・マウリッチだ。「新しいルールでは、大多数に近い選手と国が締め出されてしまうのではないでしょうか」
世界選手権に選手を派遣できなければ、多くの国がテレビ放映権を買わなくなるだろうと指摘する人もいる。ISUは収益を失い、フィギュアスケートはファンを失うだろうと。それだけではない。ISUは小さな国々でスケートの普及と質の向上のためにセミナーを開いているが、このセミナーのための資金も減ってしまうだろう。(選手を派遣できないのであれば)興味も失われるだろうし、国から援助を打ち切られる連盟も出てくるだろうからだ。
「最低スコアという考え自体ナンセンスですよ。フィギュアを普及できる国の数が減ってしまうのですから」2度のオリンピックメダリスト、エルビス・ストイコのコーチだったUschi Keszlerは言う。「これではISUが目指すものとまったく逆ですよ」
しかし、新最低スコアに満足しているというコーチもいる。
「ISUがそうした条件をもうけるなら、われわれはそれを満たすべき、選手はもっと練習をつんで点を取るべきです」そう言うのは、トム・ザカライセック(ジェレミー・アボットやレイチェル・フラットの元コーチ。現在はブランドン・ムロズなど)。「僕は教え子たちにそう言っているんです。世界選手権に出られる選手が15人とか20人とかであっても、僕はかまわない。もしもアメリカと日本、ロシア、中国の10人の選手しかこの条件を満たせなかったら、それらのトップ選手だけで競わせればいい。ほかのスポーツを見渡してみれば、最低スコアを満たしてさえいれば、ひとつの国が世界選手権や同等の試合に3人以上派遣できるスポーツもあるんですよ」
2012年世界選手権でショート19位だったイギリスのペアチャンピオン、ステイシー・ケンプ&デビッド・キング組のコーチ、ジム・ピーターソンは、ペアの最低スコアは多くの選手にとって達成可能なものだと考えているという。
「新しいTESは確かに厳しいものですが、選手の長所を生かせるようにプログラムをつくったりエレメンツを構成したりしなくてはならないという意味で、責任はコーチにかかってくると思います。ジャンプが苦手なペアならば、リフトやスピンやデススパイラルできっちりレベル4をとり、加点がつくように構成することがいっそう大事になってくる。ペアの場合、エレメンツのバリエーションが非常に多いので、そのぶん点をとる方法はいくらでもあるんです」
(ただし、ISU評議会は免責事項をもうけている。「ISUコミュニケーション1742号」には、ISU選手権大会へのエントリー資格を得た選手が足りない場合には、シーズン中に最低スコアを変更することもありえる、と書かれている)★
小さな国の連盟にとってのもうひとつの難関は、2014年ソチ・オリンピックの出場資格を得ることだ。ソチの枠の約8割は2013年世界選手権で決まるため、ここにエントリーできない国は1枠ももらえないことになるからだ。こうした国々は、オリンピック選考試合である2013年ネーベルホルン杯(ドイツ・オーベルストドルフ)に選手を送ることになるが、ここで決まる枠は各カテゴリーでそれぞれ6枠前後にすぎない。
Liberty Summer Competitionに参加していたコーチの中には、ジャッジが世界選手権やオリンピックでの自分のジャッジ枠をキープするために、(自国の)選手が最低スコアをクリアできるようGOE加点を多くつけるようになるかもしれないと危惧する者もいる。そうした中で、国際シニアB大会(9月半ばにソルトレークシティで開催される2012年U.S. International Figure Skating Classicもそのひとつ)の重要性が高まってくるだろう。
「シニアB大会の目的は、よく多くの選手に試合に出る機会をを与えることです」アメリカスケート連盟の理事、ミッチ・モイヤーは言った。「連盟は、できる限り多くのアメリカ人選手に、最低スコアを達成するチャンスを与えようとするでしょうね」