「誤解なきよう。ウィアーは本気で勝ちにいっています」
戦闘モードに入った新婚アイドル、ソチ五輪をねらう
ジョニ・ウィアーはバタフライからキャメルスピンに入った。インサイドにチェンジエッジしてから、フリーレッグをつかんでドーナツスピンのポジションに入る。2、3回よろよろと回ってから、転倒。
数分後、再びトライ。また転倒した。
ウィアーは言った。「(6点満点の)旧採点システムの時代には、スピンは簡単そうにやるようにって教わっていたんだ。ところが今は、自殺でもしようとしているかのように見えなくちゃならない。これがかなり壁になっているよ。子供がやるようなことを一生懸命練習してるんだからね。インサイドエッジで、体をさかさまにひっくり返すとかさ」
ウィアーのコーチ、ガリーナ・ズミエフスカヤは、旧ソ連時代のウクライナで腕を磨いただけあって、容赦はない。
「それがルールだもの。変えることなんかできないでしょ。さっさとやりなさい」
過去3度全米王者に輝いたジョニー・ウィアーが、今年1月、現役復帰を発表したとき、スケート関係者やファンから浴びせられたのはちょっと冷ややかな反応だった。ロゴTVで来月から放送が始まる「Be Good Johnny Weir セカンド・シーズン」の宣伝かも、とか。「ピープル」(セレブのゴシップ雑誌)の常連でいたいだけだろう、とか。どうせ2、3か月やったらやめるんだろう、とか。
それから約7か月後、7月2日で28歳になったウィアーは、ニュージャージー州ハッケンサックのIce Houseで、2007年から指導を受けているズミエフスカヤの厳しい視線のもと、1日2セッションの練習をおこなっていた。最近の練習を見てみると、3回転ジャンプはすべて取り戻し(3A-3Tを含む)、4T-3Tは安定して着氷できるところまであと少しというところまで来ている。4T-3Tは、ウィアー自ら、この秋の復帰にあたってプログラムに入れなくてはならないと考えている要素だ。
「もし僕がEXしか滑らないんだったら、アメリカのスケート連盟は僕をGPSロシア大会(11月9〜11日)に派遣したりはしないよ。本当に力強く復帰するためには、要求されていることをしっかりやらなくちゃならない。そこにクワドも含まれるんだ」
そう、誤解してはいけない。ジョニー・ウィアーは本気なのだ。
「もちろんよ。彼はがんばっているわ」ビクトール・ペトレンコ、オクサナ・バイウルといった五輪チャンピオンを指導してきたズミエフスカヤは、そう言った。「とても熱心に練習してますよ。ちゃんとジャンプを入れたプログラムを滑っています。数か月前に4Tを跳べるようになって、そのあとスケート靴を変えた(のでしばらく跳べていなかった?)けれど、最近また跳び始めているわ」
スポットライトを浴びるのが好きな男にとって、それはいくぶん気合のいることだった。2010年バンクーバー五輪での感動的な演技のあと、ウィアーはひっぱりだこだったが(「Be Good Johnny Weir」や著書「Welcome to My World」などなど)、その彼がレッドカーペットに背を向けて、もっと質素な生活に身を投じざるをえなくなったのだ。
「最初のころは大変だったよ」と彼は言う。「この生活に入って1か月半か2か月ほどたったころ、ちょっと耐えられなくなったんだ。ファッションショーに行ったり、セレブっぽいことがしたくてたまらなくなってね。でも、そのころ(休暇で)アルーバへ行ったんだ。帰ってきたらすっかりリフレッシュできていたよ」
チェコのミハル・ブレジナは、ズミエフスカヤの義理の息子となったペトレンコをコーチとして、ハッケンサックで練習をしているが、ウィアーの姿にはびっくりしているという。
「いやほんとだよ、彼はメダルをねらえると思うよ」2012年世界選手権で6位だった22歳のブレジナは言う。「トリプルアクセルはしっかりしてるし、プログラムもすばらしい。時々クワドで失敗してしまう以外は、すべてをそなえているよ」
2010年バンクーバー五輪では、ウィアーのチームメートであり古くからのライバルでもあるエバン・ライサチェクが、クワドを入れずにロシアのエフゲニー・プルシェンコを破り、金メダリストとなった。だがその後、ISUは4回転ジャンプのポイントを増やし、不完全な場合でもポイントが出やすくなるようにした。2012年の世界選手権では、上位4人は全員、最低1回の4回転ジャンプを成功させている。
まだ試合でクワドをクリーンに決めたことはないウィアーだが、クワドが最大の難関だとは思っていないという。もっと難しいのはトランジション――ステップなど要素間のつなぎの動きのことで、PCSに大きく影響を与える――だと彼は言う。
「それが僕の最大の弱点であり、ジャッジが突いてくるとしたらそこなんだ。以前にもジャッジにはそこをやられたしね。だから今は、あらゆる要素の前後にトランジションを入れている。つなぎがないとは誰にも言わせないよ」
そのための練習は着実で中身の濃いものになっているが、時に中断せざるをえないこともある。6月には中国のショーに出演したし、同じ6月にFood Networkの番組収録のためロサンゼルスに1週間滞在したこともあった。
「僕はお金を稼がなくちゃいけない。生活費の支払いがあるからね。ハッケンサックの人々にはとてもよくしてもらっていて、リンクに寄付もしてもらっているんだ。でも、僕はガリーナにコーチ料を支払わなくはならないし、そのほかの生活もある。僕がみんなに言っていることがあるんだけど、それはフィギュアスケートのためにまた貧乏になるつもりはない、ってことなんだ」
「僕は幸い、テレビ番組やいろんなイベントに出演してくれって頼んでくる人たちがいて、それはすばらしいことだと思ってるよ。練習時間は奪われるし、ロサンゼルスでの1週間はガリーナとまったく会えなかったけどね。その分のつけは、リンクに帰ってきたときに払わなくちゃならない。でも、本当に必要な時には(スケートとセレブ活動の)両方ができる強さが、僕にはあるんだ。もちろん、GP前には番組の仕事はしないつもりだけどね」
彼はたいがい、週5日はシンプルなルーティンにのっとって過ごしている。午前中と午後に1時間半ずつの氷上練習。ふつうは午後3時で練習を終えて、トレーニングコーチの家でピラテス。その後、1月2日にニューヨークで民事婚を挙げた夫、ビクター・ボロノフが待つ自宅に帰ると、家では率先して家事を楽しんでいるという。
「料理をして、掃除をして、夫とワンちゃん(日本産のチンで名前は“Tema”)のお世話をしなきゃならない。僕は強迫神経症ぎみで、なんでも整理整頓され、無菌状態じゃないと気がすまないんだ。毎日忙しいよ。おかげでよく眠れてる」
公私の区別ははっきりしている。ジョージタウン法科大学出身の夫ボロノフは、で最近ニュージャージーの司法試験を受けたばかりだが、ウィアーの練習を見に来ることはほとんどないという。
「彼がここに来たことはあるわよ、たぶん2回ね」とズミエフスカヤは言う。
「僕が仕事を家に持ち込みたくないことを、彼はわかってくれてる。だから、家のドアをくぐった瞬間から、僕らはフィギュアスケートの話はしないんだ」ウィアーはそう語る。「6月は大変だったな。僕はひと月家を空けていたし、
彼は洗濯も料理もまったくできないからね。できるようになってほしいとは思わない。なぜなら、そういった家事がちゃんとできるのは僕だけだからね」
コーチのガリーナ・ズミエフスカヤと。
ウィアーが最後に出た試合は2010年のバンクーバー五輪だ。自ら「柔らかく悲しく、とても感動的」なプログラムと評したフリーの「Fallen Angel」で、「人生最高の演技」を披露した。だが、ジャッジは評価はそうではなく、順位は6位。この結果に彼は衝撃を受け、その後のインタビューではそうした心情を率直に語っていた。
今はもう、「柔らかく悲しい」路線ではないらしい。
「戦士としての僕を見てもらいたいんだ。僕は怒りにかられた、情熱的な戦士なんだ」と彼は言う。「フリーのプログラムのタイトルは“フェニックス(不死鳥)”。女性弦楽グループのエスカーラ(SarabandeとRequiem)と、バイオリニストのエドウィン・マートン(a Chopin selection)の曲をつなげたものだ。自分が大好きな、いい刺激を受ける曲を選んだんだ。古典的な音楽ではあるけれど、僕らのプログラムのアレンジぶりを見れば、“ああ、またか”とは誰も思わないはずだよ」
ショートはとびきり活発で楽しいプログラム。ウィアーのアイドルであるレディー・ガガの曲を使ったものだ。振付はおもにウィアー自身とコーチでおこなったが、ほかの専門家の力も力を借りている。
「ニコライ(・モロゾフ)がステップ部分だけ担当してるわ。彼は採点システムに対応するのがとてもうまいんです」と、ズミエフスカヤ。「ジョニーは非常に優れた身体の持ち主で、音楽への感応がすばらしいの。私が思うに、彼は振付師のとおりに演じるのではなく、自分自身の感情でプログラムを作ったほうがいいと思うわ」
「ニコライはアドバイザーだ。それ以外については、僕はフリーエージェントなんだ(←*すみません、この部分あいまいです)」ウィアーは言った。「本当は夏の初めごろにデビッド・ウィルソンに見てもらいたかったんだけど、彼は超多忙だし、僕のスケジュールも合わなくて。結局、このショートは僕とガリーナで作ったんだ」
GPSで出場予定のロシア大会とフランス大会は楽しみにしているし、12月にソチで開かれるGPファイナル(2014年五輪への試金石になる)にも出られたらと思っているが、これらはオードブルにすぎない。メインは、1月にオマハで開催される2013年全米選手権。2013年世界選手権に出るためには、ここで2位に入ることが必要になる。
「全米選手権、これが一番ハードな試合だよ」とウィアー。「もしもショートとフリーにジャンプをすべて入れて、自分にできることがすべてできたら、僕が2枠のひとつを獲得できない理由は見つからないな」ここで少しだけ間を置いて、「厳しい戦いにはなるだろうね」
ここ数年、ウィアーとアメリカの連盟の間には若干問題があった――そのうちのいくつかについては彼の著書に書かれている――ものの、今は非常にいい関係だという。
「連盟との関係についてはすごく満足してるよ」と、ウィアーは言う。「今回の復帰を発表して以来、僕のことをとても尊重してくれてるし、サポートもしてくれている。世界選手権の2枠に入れたら最高だな。アメリカがソチ五輪で3枠とる手助けをしたいと、心から思っているからね。もしもいい演技ができても2枠に入れなかったら、きっと早めの休暇旅行に出かけちゃうだろうな。あ、でも今季の四大陸は日本だったよね。それなら出てもいいかも」
ウィアーの次の予定は、今月下旬にコロラドスプリングスでおこなわれるアメリカスケ連の「Champs Camp」。連盟の役員とジャッジの前でショートとフリーを披露し、評価をみるための試合だ。その後は、10月上旬のフィンランディア杯でプログラムを試したいと思っているという。
「コロラドでのテストスケートはとても楽しみにしているよ。偉い人たちから反響をもらえるチャンスだからね」と、ウィアーは言う。
「本気だよ。もし本気じゃなかったから、それをやる意味なんて全然ないだろう? 自分がやってることに対して、僕は真剣そのものだ。本気で競技したい。勝つか負けるか――それが僕の重大事なんだ。GPファイナルに出たい。
ソチのオリンピック・アリーナで滑りたいんだよ」
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興味深いこと満載のインタビューですが、とくにびっくりしたのは…ニコライ・モロゾフ!!!!
な、なんとレディー・ガガの曲を使った新SPの、ステップ部分の振付がモロゾフとな!!!!
ただし、ジョニーはあくまで「彼はアドバイザーだよ」と言っていますが(どっかで聞いたセリフですね!大輔さんww)、やはりソチ五輪に向けて、モロゾフの手腕は有用ではあるんでしょうね。ガリーナコーチのいうとおり、ルールを活用するのは大得意ですし。
それにしても、ジョニー+レディー・ガガ+モロゾフ=??? うわー、怖いもの見たさですが、これは見たい!!!!!
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